自閉症を克服するまでの長い道のり〜脳神経学者の母と娘の物語

 

IBA(International BodyTalk Association)のカンファレンスでは毎回

ボディートークに取り入れられているさまざまな最新の科学的知見について

その第一人者である専門家の方々が講演をされます。

 

そのなかのひとり南アフリカのハンリー・ムールマンスムーク博士は

生化学の分野において国内外で優れた功績を認められ

受賞歴も豊富な脳神経学者ですが

2005年に当時3歳だった愛娘のシモーンちゃんが

重度の自閉症と診断されたことをきっかけに

自らの専門である脳科学やブレインマッピングを用いて

自閉症の研究に取り組むようになり

今ではその道の権威とも呼ばれている方です。

 

脳科学の視点から自閉症を解き明かしていくだけでなく

ときに葛藤しながらも自閉症児に寄り添ってきた母としての

個人的経験を踏まえたプレゼンテーションには説得力があり

ボディートークをどのように活用してこられたか

なぜボディートークが自閉症の改善に効果的なのかも

明確に提示されていてとても勉強になりました。

 

この日ムールマンスムーク博士が繰り返し口にしていたのは

シモーンちゃんへの感謝の気持ちです。

娘は最高の教師であり、親としてともに過ごす日々のなかで

たくさんのことを学ばせてもらっていると。

自閉症児はまさにスーパーヒューマンであり

典型的な負のイメージに囚われていてはいけないとも

おっしゃっていました。

 

そのことを実感する最初のきっかけとなったのは

診断が下った直後からはじめたABA(応用行動分析学)の

トレーニングにまつわるできごとでした。

ABAは欧米で自閉症児の早期療育に広く用いられており

専門の訓練を受けたセラピストが一対一で

コミュニケーションの取り方を教えたり

問題行動を改善させていくものです。

当初は一定の効果が上がっていたそうですが

一年半を過ぎた頃から雲行きが怪しくなっていきました。

もともと穏やかで優しい性格で人に手をあげることなど決してなかった

シモーンちゃんがチューターを叩くといった

攻撃的なふるまいをみせるようになったのです。

 

同じ頃、シモーンちゃんへのボディートーク・セッションでは

(自閉症の診断以前から家族のヘルスケアとしてボディートークを

取り入れていてときどきセッションを受けていたそうです)

セラピストとの関係性の問題が浮上しており

シモーンちゃんがセラピストに不信感や拒絶感を

抱いていることが明らかになりました。

誠実に仕事をこなすとても優秀なセラピストで

何ら問題はないように見えてはいましたが

娘は違う何かを感じ取っているのかもしれない。

そう考えたムールマンスムーク博士はそれとなく

セラピストの女性に声をかけじっくり話を聞いてみたところ

彼女は恋人との仲がうまくいかなくなって

悩んでいたことがわかったといいます。

シモーンちゃんはそのネガティブなエネルギーに反応していたんです。

ふつうの人間付き合いのなかでは隠し通せる心の内も

自閉症児はかんたんに見抜いてしまうということですね。

他にも誰かと喧嘩をした直後の人が部屋に入ってくると

平静を装っていてもシモーンちゃんが明らかに反応するので

それを見て何かあったんだなと気づくとか

夫(シモーンちゃんの父親)が腰を痛めて帰ってきたときには

見た目にはわからない程度の軽傷でまだ何も話してないにもかかわらず

シモーンちゃんが腰に手をあてて「パパ、痛い」と言ったとか

彼女の超人的な感覚の鋭さを思い知らされる場面は

日常のなかで数えきれないほどあるそうです。

 

このようにきわめて繊細な感覚をもつ人はHSPと呼ばれ

これは自閉症の人がもつ特性のひとつでもあります。

一般的に自閉症の人は空気が読めない

表情やボディーランゲージが読めない

他の人の立場になって考えられないなどと言われていますが

実は平均的な人よりもはるかに高い感受性をもち

物事をより本質的に捉える力に長けていると博士は断言します。

むしろかけ離れたレベルで感じとりすぎているからこそ

コミュニケーションが難しくなっているのです。

現代社会では自閉症は病気であり障害とされているわけですが

古からつづく先住民の文化のなかでは

そのような特性をもつ人は不思議な力をもつ神の使いとされ

シャーマンとして崇められることが多いのも頷けますね。

 

わたし自身、今の時代にこどもだったら間違いなく

自閉症スペクトラムとかアスペルガー症候群といった

診断になっているであろう自閉症傾向の強い人間ですが

まさにシモーンちゃんと同じようなレベルで

他人の意識や感情を読み取ってしまうことが

生きづらさの主な原因のひとつになっていました。

(→繊細すぎるあなたへ〜HSPでも楽に生きられるようになったわけ

でも周りのふつうの人たちの目には

意味もなく感情的になり、わけもなく不機嫌になる

情緒不安定でわがままなこどもでしかありません。

そうじゃない! ぜんぶ理由があるのに!と思っても

自分に見えているものが他の人には見えていないことも

完全に悟っていたので、理解されるはずがないという

あきらめと苛立ちで悶々とするだけの日々でした。

 

“ふつう”とは異なる感じ方もあるのだという発想のもと

こどもの変化や反応にどんな意味があるのかを理解しようとする

ムールマンスムーク博士のような親であったなら

自分もどんなにか救われていたことか…。

だからこそ、こどもが何を感じているのか

こどもの内面で何が起きているのかを窺い知るための手がかりとしても

ボディートークを活用する親御さんが増えることを心から願っています。

 

さてABAに話を戻すと、このあとすぐにやめたそうです。

というのも、ABAでは動物をしつけるのと同じ考え方で

(動物に対してさえそのような手法は適切とは言えませんが)

トレーニングを進めていくんです。

こどもが泣き叫んで拒否しても指示どおりにできるまで続ける。

ムールマンスムーク博士はその光景を見ていて

母として胸が張り裂ける思いだったといいます。

シモーンちゃんの心にも傷を残してしまうことは想像にたやすく

こどもが幸せに生きていけるようにするためではなくて

こどもをコントロールしやすい状況を作ることを目的とした

このやり方では解決策にはならないという結論に至ったのです。

 

博士いわく、自閉症のこどもは物事を学習する方法が

ふつうのこどもとは異なっていて

さらにそのことをはっきりと自覚しています。

そして、自分に何ができて何ができないか

自分にとって何が適していて何が適していないかを

ふつうのこどもよりも明確に把握しているそうです。

だから「できない」「やらない」と決めたことは

なにがなんでもやらない。

これもわたし自身の特性そのものなのでよくわかるのですが

だから標準的に良しとされている方法で

物事を学習させようとしてもうまくいかないんですよね。

つまり一律に“ふつう”を無理強いするのではなく

それぞれの特性に合わせたトレーニング法を

見つける必要があるということです(ABAが有効なケースもある)。

 

ABAが助けにならないとわかったあとムールマンスムーク博士は

なんとか少しでも娘の力になりたいとの思いから

自らボディートーク認定施術士の資格を取得するとともに

より経験豊富な施術士や創始者であるヴェルトハイム博士による

セッションも定期的に続けることになります。

それと同時に脳科学の観点から自閉症のメカニズムを解明する

研究も精力的に進めていきました。

その成果はボディートークのテクニックにも取り入れられており

ボディートーク療法の発展にも大いに貢献しています。

今回の講演では自閉症の人の脳神経系やその他のどの箇所に

どのようなアンバランスが生じている可能性があるかについて

具体的に詳しくご教授いただきましたので

今後はこれらの知識を踏まえてより効果的なセッションを

提供していきたいと思います。

 

そのなかでとくに興味深かったことをいくつか。

 

まず発症の原因について。

自閉症は先天的なものと考えられがちですが

明らかに遺伝的な要因が認められるケースは全体の10%程度にすぎず

多くは何らかの理由により脳の発達段階で乱れが生じたことが

原因となっています。

その結果として生じるアンバランスの内容や程度は人によりさまざまで

脳だけでなく他の器官や循環器系、免疫系、代謝、

さらには重金属や化学物質などの環境的要因が原因であるケースもあるとのこと。

この点で個々のケースに応じて調整が必要な箇所を特定できる

ボディートークがきわめて有効であると博士は強調されていました。

 

また自閉症の特徴としてよく知られているのは言葉の遅れですが

実は自閉症の人の脳では言語のインプットを司る部分は

平均的な人よりも高度に発達しているそうです。

つまり言語を理解する能力はふつうの人よりも優れているんですね。

ただし理解した言語に反応して発話する能力を司る部分は

発達が遅れていてアウトプットが苦手であるためうまく返答できず

言葉を理解していないと見なされてしまうのです。

 

わたし自身は現在言葉を扱う仕事で成功していることからもわかるように

言語能力はインプット、アウトプットともに高いのですが

自分が言葉を発したときに相手が自分の意図を

どの程度理解したか、あるいは理解しなかったか

どの部分をどのように誤解、曲解したかをすべて読み取ってしまうため

言葉が正確に機能していないというストレスが大きく

ごく一部の言語コミュニケーションに敏感な人以外とは

まったく話さないこどもでした。

(大人になった今では誰とでも社交としてある程度の会話はします)

その結果、家ではほとんど口を開くことがなかったので

あんなにしゃべらないのはなにか異常があるのではないかと

母親が教師に相談しているのを聞いたことがあります。

まあこれはかなり稀なケースだとは思いますが

“言葉の遅れ”と見なされる状況も一般に考えられているほど

単純なものばかりではないのかもしれません。

 

シモーンちゃんはボディートークと並行して

ニューロフィードバックやブレインジムといった

脳のトレーニングを続けて10歳を迎える頃には

「こんなに社交的なのに本当に自閉症なの?」と

言われるほど明るく元気な女の子に成長しました。

 

ムールマンスムーク博士によると

中程度までの自閉症であればボディートークだけでも

じゅうぶんな改善が期待できるとのことですが

シモーンちゃんのような重度の自閉症の場合には

他のトレーニング法も同時に行う必要があります。

その際、ボディートークで体と心のバランスを整えながら

トレーニングを実施すれば効果がより上がりやすくなる。

このように複数の支援策を組み合わせて

相乗効果を得ることが重要なのです。

 

“ふつう”という概念で縛られたこの世界に

変化をもたらすために生まれてくる自閉症のこどもたち。

彼らが何を見て、何を感じているかを知ろうとすれば

そこから学べることはたくさんあります。

“ふつう”に矯正するのではなく

それぞれがもつ特性の良い面を発揮できるように

バランスを整えていけばいいのだという

ムールマンスムーク博士の理念には共感しかありませんし

それはボディートークの哲学とも一致しています。

 

アメリカのデータではありますがCDCによると2018年時点で

59人に1人のこどもが自閉症スペクトラム(ASD)と診断されています。

また診断のあるなし、大人こどもに関わらずアスペルガー症候群

発達障害など自閉症的な傾向をもつ人は少なくないと思います。

そういったすべての人を生きづらさから解放してくれるのがボディートーク。

脳科学者のお墨付きです。